「内製化」の本当のコスト:エンジニア採用費・教育費・離職リスクを考慮した損益分岐点
「ITベンダーの見積もりが高すぎる。これなら社内でエンジニアを一人雇ったほうが安いのではないか?」
IT化を進める中小企業の経営者が、一度は抱く疑問です。確かに、成功すればノウハウが社内に蓄積され、スピーディーな開発が可能になります。しかし、その「損益分岐点」を正しく計算できているでしょうか?
エンジニア一人を「戦力」として維持するためにかかる、真のコストを紐解きます。
エンジニア一人を採用するための「初期コスト」
「給与」の前に、まず「採用」にお金がかかります。
- 紹介手数料: 年収の30〜35%が相場。年収600万円のエンジニアなら約200万円。
- 求人広告・媒体費: 掲載だけで数十万〜百万単位。
- 採用工数: 面接やスカウトメールの送付に費やす、社長や役員の時間。
これだけで、入社初日に 200〜300万円 のコストが確定します。
年間の「維持コスト」は給与の1.5倍
エンジニアの年収を600万円とした場合、会社が負担する実質的なコストは900万円程度になります。
- 社会保険料・福利厚生: 給与の約15〜20%。
- PC・周辺機器・ソフト: ハイスペックなPC、複数のモニター、各種SaaSのライセンス。
- 技術学習費: 書籍、セミナー参加、検証用クラウド費用。
- 管理コスト: 非エンジニアの経営者が、エンジニアの評価やモチベーション管理を行うための精神的・時間的コスト。
最大のリスク:離職と技術負債
内製化において、最も高くつくのが「離職」です。
- 属人化のリスク: 一人エンジニアが辞めた瞬間、その人が書いたプログラムの内容が誰にもわからなくなり、システムが「ブラックボックス」化します。
- 採用のやり直し: 前述の採用コストが再度発生します。
- 開発の中断: 新しい人が慣れるまでの数ヶ月間、IT化の歩みが完全に止まります。
もし、辞めたエンジニアが「自分にしかわからない複雑なコード(技術負債)」を書き残していた場合、後任はそれを作り直すことになり、外注するよりも遥かに高いコストがかかります。
内製化 vs 外注:損益分岐点の目安
中小企業が内製化に踏み切るべき「損益分岐点」の目安は、以下の通りです。
- IT化が事業の「核」であるか: 単なる事務効率化ではなく、ITそのものが売上を生むモデルなら、コスト度外視で内製化すべきです。
- 継続的な開発案件があるか: 年間の外注費が 1,500万円〜2,000万円 を安定して超えるようであれば、内製化(チーム化)の検討余地があります。
- 「二人」雇う覚悟があるか: 一人エンジニアはリスクが最大です。互いにレビューし合い、ノウハウを共有できる「二人体制」が組める予算規模があるかが、成否を分けます。
「安さ」ではなく「戦略」で決める
「外注費が高いから」という消極的な理由での内製化は、多くの場合、採用の失敗や離職によって高くつきます。
まずは信頼できるパートナー(外注)とプロトタイプで要件を固め、業務のデジタル化を安定させる。その上で、特定の領域に絞って内製化を検討する。この「ハイブリッド」な進め方が、中小企業にとって最もキャッシュフローを痛めず、リスクの低い戦略です。数値上の「給与 vs 外注費」の比較だけでなく、離職という「不可視の損失」を必ず計算に入れてください。