あえて「IT化しない」も手段の一つ

IT化を推奨していますが、IT化は必ずしも効果があるわけではありません。費用対効果が合わない場合や、本来の業務優先度を考えると後回しが正解なケースもあります。「IT化しない」という判断も、立派な経営判断です。

「Excelは悪」「クラウドでないと時代遅れ」は誰の言葉か

IT系の記事やセミナーでは、こうした言葉をよく見聞きします。

  • 「いまだに紙と電話で業務している会社は危ない」
  • 「Excelでの管理は限界。クラウドへ移行すべき」
  • 「DXしなければ生き残れない」

これらの多くは、ITサービスを提供する側のセールス文句やポジショントークがほとんどです。システムを提供する立場からすれば、現状に危機感を持ってもらった方が商品の売り上げは伸びます。

実際には、Excelで十分に管理できている業務は存在しますし、規模や頻度によっては紙の方が早くて正確なこともあります。情報の発信源と意図を考えた上で判断することが重要です。

IT化が効果を出せない場面

IT化には効果がある場面とない場面があります。以下のようなケースでは、費用対効果が出にくいです。

発生頻度が低すぎる業務:年に数回しか発生しない処理をシステム化しても、覚え方を忘れるたびにやり直しになります。マニュアルで運用する方が現実的です。

業務自体がなくなりそうな場合:近いうちに廃止・変更が決まっている業務にIT投資するのは無駄になります。変化が落ち着いてから検討する方が合理的です。

担当者が1人しかいない業務:1人のためにシステムを整備するより、その人がやりやすい方法を尊重する方がトータルコストが低い場合があります。

アナログの方が相手に合っている場合:顧客や取引先がデジタル対応に慣れていない場合、FAXや電話の方がスムーズにことが進むことがあります。自社の都合だけでIT化すると、関係者の負担が増えることがあります。

費用対効果が合わない場合は見送りが正解

IT化には導入コスト・月額費用・学習コスト・運用コストが伴います。これらを回収できる業務改善効果が見込めるかどうかが判断基準です。

たとえば、月2時間の作業をIT化するためにSaaSを月1万円で導入しても、時給換算で数千円の節約に対して費用が上回る可能性があります。規模が小さいうちは「そこまでの費用をかけるほどの問題ではない」という業務が多く存在します。

IT化の優先順位は、効果の大きい業務から順番にです。小さな業務を片っ端からIT化しようとすると、コストと手間だけがかかって本来業務が圧迫されます。

「IT化が目的」になっていないか

IT化の本来の目的は、業務を楽にすることや売上・利益を増やすことです。IT化すること自体が目的になってしまうと、判断の優先順位が狂います。

「競合がやっているから」「時代の流れだから」という理由だけでIT化を進めると、費用対効果の検証をせずにコストだけが積み重なります。小規模事業者は大企業と違い、IT投資の失敗が経営に直接響きます。IT化予算が潤沢にあり、試行錯誤を許容できる状況ならともかく、限られたリソースの中では「何をやらないか」の判断が重要です。

IT化は手段であって目的ではありません。本来の業務や経営の優先順位を起点に、IT化の是非を判断することが正しい順序です。