「よくある感じ」はどこにもない

「よくある感じでお願いします」――その言葉が、のちに大きな混乱を招くとは、この時点では誰も気づいていなかった。

発注者の頭の中にある「よくある感じ」

あるプロジェクトで、発注者はこんなふうに伝えました。

「ここは、よくある感じの検索機能を搭載していただいて、ここはよくある感じのデザインでお願いします」

「よくある感じ」という言葉には、実は十人十色のイメージが詰まっています。発注者の頭の中には確かに「よくある感じ」がありますが、それを言語化しないまま相手に渡すと、思わぬすれ違いが生まれます。

この発注者はITが少し苦手でした。そのため「よくある感じだから大丈夫だろう」と、ベンダーから提出された資料もざっくりと確認する程度にとどめていました。「よくある感じなんだから、きっと合ってるはず」という安心感とともに。

受け入れテストという名の衝撃

開発が進み、いよいよ受け入れテストの日がやってきました。

「では、こちらが完成したシステムになります」

画面を見た発注者の表情が、じわじわと曇っていきます。

「……これ、私がイメージしてたものと、だいぶ違うんですが」

できあがっていたのは確かに「よくある感じ」でした。ただし、ベンダーにとっての「よくある感じ」が。検索機能は動きます。デザインも整っています。でも、発注者の思い描いた「あの感じ」とは、似て非なるものでした。

「よくある」は無数に存在する

振り返ってみると、原因はシンプルです。「よくある感じ」という言葉には、具体的な情報が何も含まれていませんでした。

ベンダーも悪意があったわけではありません。彼らもまた「よくある感じ」を誠実に解釈し、誠実に作り上げました。ただ、それが発注者の「よくある感じ」と一致していなかっただけです。

曖昧な言葉は、誤解の入口になります。「よくある感じ」「一般的な」「普通の」という言葉を使いたくなったときこそ、参考にできるサービスや画面のスクリーンショットを一枚添えるだけで、話は大きく変わってきます。

「よくある感じ」は、世界に無数に存在しています。