イマドキだからSaaSを選んだのに

「クラウドで、すぐ使えて、月額制。これで決まりでしょ」——その一言が、数年後に重くのしかかってくるとは思わなかった。

導入は本当に簡単だった

ある企業の情報システム担当者は、営業管理ツールの刷新を任されました。予算は限られている。でも使いやすくて、クラウドで、スマホからも使えるものがいい。

調べてみると、ちょうどいいSaaSがすぐに見つかりました。無料トライアルがあって、設定も簡単。営業メンバーに触ってもらったら「これ使いやすいですね」と好評でした。

「よし、これで行こう」

導入はスムーズで、現場への展開も順調でした。半年もたたないうちに全社で使われるようになり、担当者は「うまくいった」と感じていました。

2年後、契約更改のタイミングで

ところが2年後、契約更改のタイミングで状況が変わりました。

サービス提供会社から連絡が来ました。「プランの改定に伴い、現在のご利用内容ですと上位プランへの移行が必要になります」。料金は現在の約2.3倍でした。

「え、そんなに上がるの?」

他のSaaSに乗り換えることを検討しました。しかし、2年間蓄積した顧客データ・商談履歴・活動ログをどうやって移行するかが問題になりました。エクスポートは可能でしたが、フォーマットが独自規格で、別のツールにそのまま取り込めるものではありませんでした。

結局、移行コストと手間を考えると「値上がりしても使い続けるしかない」という結論になりました。

業務が変わると、SaaSの限界が見えてくる

値上げの問題が落ち着いた頃、別の問題が浮上してきました。

会社の組織改編に伴い、営業プロセスが変わったのです。従来は担当者が一人で顧客を追う形でしたが、チーム制に移行することになりました。複数人で同じ顧客を担当し、役割ごとに見える情報を変えたい。

「この機能、設定できないんですか?」

サポートに問い合わせると、返ってきた答えは「対応しておりません」でした。

仕方なく、足りない部分は別のツールで補うことにしました。情報共有にはチャットツール、進捗管理には別のプロジェクト管理ツール、集計にはエクセル。「SaaSひとつで完結する」はずが、いつの間にか複数のツールを組み合わせて運用する形になっていました。

連携の手間、入力の二重化、ツールごとのアカウント管理——気づけば担当者の工数は以前より増えていました。

SaaSが「使いやすい」のはサービス側にとっても同じ

SaaSが便利なのは間違いありません。しかし、「簡単に始められる」ということは、「簡単に辞めさせない」設計でもあることが多いです。

データが積み上がるほど、乗り換えのコストは高くなります。サービスの価格・仕様・提供体制はベンダーの都合で変わります。便利さの裏にある依存関係を、導入前に意識しておく必要があります。

「イマドキだから」という理由だけでSaaSを選ぶのは、少し早合点かもしれません。

何年後かに「こんなはずじゃなかった」とならないために——導入前に出口のことも考えておくことが、長く使えるシステム選びの第一歩です。